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#4

美濃焼の持つ可能性

美濃焼の持つ可能性を広げているクリエイターの方々は、美濃焼のこれからについてどのような思いがあるのでしょうか。
今回はタイルを使ってアクセサリーや雑貨を制作する講師を勤めている伊東先生と山口先生にお話を伺いました。

伊東 先生

伊東 先生

タイルアート空間演出専門家/
美濃焼タイルアクセサリー

まず伊東先生はなぜ美濃焼に惹かれたのですか?美濃焼のどんなところを魅力的に感じましたか?

伊東先生:私が美濃焼を知る前にタイルから入ったんです。27年前にたまたまあるタイルメーカーさんのホームページを見てたら、そこに「タイルの先生募集」と書いてあったので、それに応募したんです。

それまではタイルにそんなに触ったこともなかったし、タイルってお風呂場とかトイレとかで使われているイメージぐらいしかありませんでした。タイルを教えるって何だろう?と思いながら求人に応募して、初めてタイルを体験したんですね。

その時は「美濃焼」という言葉は知らなかったんです。外国製や日本製のタイルの区分けも知らないままでした。色んな作品を作りながら、タイルや磁器、石の種類を知っていきました。制作に使ったタイルについて「このタイルはどこで作られているのですか?」とメーカーの方に聞いたら、「岐阜県の多治見市のタイルメーカーさんですよ」と教えていただき、そこで美濃焼タイルの名前を初めて知りました。

タイルを使った制作が楽しくなって、どんどんいろんなタイルを使ってみたいと思うようになったんです。モザイクタイルミュージアムができてから、初めて多治見市に行って、美濃焼のミュージアム資料とか、お店も何店舗も見ていた時に、そこで出会った人たちが美濃焼の良さをいろいろ教えてくださったんです。

そこからタイルを扱っている1教室として、国産のこんな素晴らしい美濃焼タイルがあるんだったら、もっとこれを使った方がいいんじゃないかなって思いました。美濃焼タイルっていうと生徒のみなさんの反応も違うんですよね。

そうなんですね。イベントなどの一般のお客様からの反応はどうですか?

伊東先生:私達がいろいろイベントするときでも「タイルで作ろう」とか「タイルコースターを作ろう」って書くよりも、「美濃焼タイルでコースターを作ろう」って書くと集客が全然違うんですよ。イベントで「美濃焼って何ですか?」と聞かれるので、「美濃焼タイルは国産の本当に品質の良いタイルなんです」と説明しています。美濃焼の字も「美しい、濃い」って書くからそれだけ高級にも見えますよね。

タイルで作品を作るときの美濃焼タイルの特徴や魅力について教えてください。

伊東先生:タイルって重いイメージがあるけど、美濃焼タイルは軽いんです。しかも形も色も正確なんです。海外のタイルやガラスとか使っていると形が正方形じゃないんですよね。綺麗な幾何学模様を作ったりするときには、タイル自体が少しでも長方形だったり曲がったりしていると、綺麗なモザイクができないんです。美濃焼タイルの正確な正方形のタイルをカットしていくと、とても綺麗に模様が出来上がります。

あとは日本のタイルは本当に品質が良くて色も均一です。海外のタイルを発注すると、品番が同じでも違う色が来ることがあるんです。前回よりもちょっと色が薄いんじゃない?みたいなこともあって。美濃焼はそんなことはなく、1年前に頼んだものと同じ色を出してくれていて、「The 日本」って感じがするねと、よく話しています。

タイルの細かな部分の積み重ねで綺麗な作品が出来上がるようになっているんですね。

伊東先生:そうです。タイルを発注して、品番通りに届くというのは当たり前のように感じますけど、この色をきちんと出すのは大変なんだろうなと思います。同じ黄色でも濃いのと薄いのってありますよね。頼んだ同じ品番のタイルを全部並べても同じ色になっているのはすごいと思います。

美濃焼のタイルの色は何色ぐらいあるんですか?

伊東先生:私の教室では60色ぐらい使っています。手元にあるのは大体60〜80色ぐらいです。磁器タイルを揃えています。黄色だけでも4種類ぐらいあるので、品番で管理しています。

美濃焼の持つ可能性や今後についてはどのように考えられていますか?

伊東先生:美濃焼の魅力は国産であることです。今手元にあるものはメイドインジャパンが減ってきているなと思います。美濃焼の粘土山とか見に行きましたが、その地域で作られた土とかにはやはり歴史があるんだなと感じました。自分が作る作品は、どんな地域の素材を使っているのかと感じながら作っています。

手作りが好きでハンドメイドで物を作る皆さんは、「何を使うか」ということに、こだわっていく人が増えていくんじゃないかなと思っています。

「何を使って作るか」というように、作品作りにこだわりを持つ方にとって、美濃焼のブランドや歴史は非常にプラス要素に感じられるでしょうね。

伊東先生:そうですね。アクセサリーを作る方といろいろ話す機会がありますけど、「何となく可愛いから、このタイル使ってアクセサリー作っています」という人が結構いるんです。「そのタイルのこと説明できる?」「どうやって作っているか知ってる?」と聞くと説明できないんですよ。それってもったいないなと思っていて。せっかく同じものを売るんだったら、「このタイルはどこでできていて、こういう思いで作っているんですよ」みたいなことを説明して、「私達はこれに装飾してイヤリングやネックレスにしてます」と表現すると、売れやすくなります。「何となく可愛い色でタイルが珍しいから作っています」だけだと、魅力が伝わらないので、すごくもったいないなと思っています。

作家さんがなぜ美濃焼を使うのか、美濃焼のことを軽く説明して販売するとか、お教室でも美濃焼のことを話したり、多治見市にある美濃焼のお店について話したりすると、聞き手のイメージが全然変わってきます。その話になると生徒のみんなが結構食いついてきて、自分も多治見市に行ってみたい、モザイクタイルミュージアムに行ってみたいと思うようになります。

タイルを作っている場所とか美濃焼タイルのことを少しでも知るだけで、こんなに人は聞いてくれるんだなと感じます。やはり「何を使っているか」って作り手にとったらすごく大事なことだと思っています。その説明をすることで、どんどん商品は売れるんじゃないかと思います。

タイル作品を作る体験に価値を感じる。

手作りのものを通じて、お客様(消費者)の方に伝えたいことはありますか?

伊東先生:今はね、どちらかというと商品を買う人よりも作りたいっていう人が多いんですよ。同じ1000円のコースターを私が上手に作って並べても、1000円で作りたいって人が多いんです。買った方が綺麗じゃない?と思うんですけど、作る方にお金を払うんですよ。ちょっと並んで待ってでも作りたいという人がいます。買ったら10秒で買えるんだけど、ものを作る20分とか30分を楽しみたい。それにお金を払いたいって人がすごく多いんですよね。

だから今は、自分でいっぱい作品を作って売るよりも見本を作って、「これと同じものとか、色違いが作れますよ」「色を自由にデザインを変えていいですよ」というふうにして売っていくことが、最近多いんですね。それはみんな「自分で何か作ってみたい、選んでみたい」っていう心理が働くんだと思います。

ものづくり体験に需要があるんですね。

伊東先生:私も体験してもらうのがいいなと思っています。家でも作れるように、材料を詰め合わせたキットの販売もしています。そういう形で新しい販売ルートというか、作りたいという人向けの商品を出すのもいいなと思っています。

それでもやはりその商品に魅力がないといけない。作りたいと思ってもらえるようなものじゃないと。だから、ただ「タイルでアクセサリーが作れますよ」って売るよりも、「美濃焼の材料を使っているので作ってみてくださいね」と言って、地名や日本製の美濃焼を押していくと、興味を持ってもらいやすいと思います。

そのためには、売る側も美濃焼の良さやどこで作られているのかなど、お客様に聞かれたらすぐに説明できるように美濃焼のことを知っておくことも大事だと思っています。

手作りできるキットや体験会を通して、美濃焼タイルを使った作品作りに目覚めたり、もっと知りたいと思ったりする方って結構いらっしゃいますか?

伊東先生:あまり手作りをやったことがない人でも、タイルは簡単に出来て、結構見栄え良くできるということもあるので、作るのが楽しくなるんです。これからAIが進んでいくとか言われていますけど、手作りの作って貼ったり押したり混ぜたりする、この作業をロボットがやってくれれば楽になるとは思わないんですよね。自分で混ぜたい、自分で貼りたいと思っていて、そういう楽しみをタイルでできるといいと思っています。

作る楽しみって、やったことがあると分かるんです。1個できると嬉しいし、誰かに見せたくなります。ただ「お茶飲みながらお喋りしましょう」というよりも、「何か作りながらお茶飲みましょう」ってなったり、何か目的があるというのがすごくいいなと思います。

お話を伺っていると、タイルで作るのは初心者の方にとっても比較的やりやすいと感じましたが、他のアクセサリー作りに比べても、初心者でも取り組みやすいのですか?

伊東先生:そうですね。私が今やっているイベントは、タイルを摘めれば一番小さい子は2歳でもできますよ。1歳はね、タイルを口に入れちゃうからまだダメなんですけど、2歳でタイルを舐めずに摘まめて置ければ、タイルを貼れます。私もお手伝いはしますけど、タイルを使った作品作りは、2歳の小さい子から老人ホームのおじいちゃんおばあちゃんまでできます。手で使ってタイルを摘むので高齢者の方にはボケ防止にもなります。

小さい子からお年寄りまで楽しく、とても簡単に作れる作品もあって、誰でもできるものから、細かくタイルをカットして、精密に並べてモザイクを作るものもあります。タイルには飽きない魅力があるんだなと思います。私の生徒さんはみんな10年とか15年とか教室で習っていますね。

タイルは「何か」に貼るっていう作業があって、その「何か」を探すのも楽しいし、出来上がったものは丈夫で長持ちするので、壊れて捨てることもないし、プレゼントにしても喜ばれる実用的なものができるのもすごく良いですね。タイルは長続きする人がすごく多いので、作る喜びというか、何か魅力があるんだと思います。

タイルを上手に使って作るコツや、綺麗に作れるポイントはありますか?

伊東先生:例えば、コースターだったら外側1周先に貼る。下の左から、12345粒貼って、また左から1235粒って貼っていくと、ちょっと斜めちゃったりとかするんです。まっすぐ貼るんだったら、コの字というか、外側7粒7粒7粒7粒貼って、次内側の6粒6粒っていうふうに貼ってくと曲がらないよっていうやり方を教えています。

やはり綺麗に並んでるのがタイルなので、ただ貼ればいいっていうもんじゃない。こういうところを体験でも教えていくと、ただ「タイルを貼って終わって楽しかった」だけで終わっちゃうんじゃなくて、ちょっと気を遣ってまっすぐ並べたところがある方が、出来上がったときの達成感もあるので。まっすぐ並べるコツを体験のときに教えてあげると、皆さんがより楽しめるというか、自分でやったぜ!という感じになるみたいです。

実際に上手くなっていくみたいなのが自分でわかると、達成感が確かに出ますよね。

日本を訪れた海外の方にも美濃焼を体験してもらい、魅力を伝えたい。

美濃焼の今後の展望やこういう人に伝えていきたいなど、美濃焼を扱い続ける思いを教えてください。

伊東先生:今インバウンドで外国人の方が日本に来られて、何か日本の体験をしたいと思われます。ワークショップをすると外国人が参加することが多いんです。何でも彼らが作りたがるんですけど、やはり日本に来てなにかアクティビティをするんだったら“Japanese Traditional Tile(ジャパニーズ トラディショナル タイル)”を30分間で体験してもらうのがいいかなと思っています。

陶器物で割れちゃったりする心配があるので、鍋敷きとか植木鉢なんか作れませんけど、お土産にアクセサリーとか小さなコースターぐらいだったら、割れないで持って帰れるかなと思います。せっかくなので日本で体験してもらいたいっていう思いがあります。

美濃焼の魅力と作品作りの楽しさを伝えられる先生を増やしたい。

伊東先生:あとはそれを教える先生がもっといっぱいいたらいいなと思っています。誰でも教えられるわけではないと思っていて、ただ作ればいいっていうよりも、作っている工程を盛り上げたり、ひと言ふた言の気の利いたことを言える先生が結構少なかったりするんですよ。だから同じものを作っても「あの先生に教わったらすごい楽しかったけど、この先生に教わったらなんか別に普通だった」とならないように、私は言葉がけとか美濃焼の話を軽く5分ぐらいするようにしています。それだけでも、「すごくいいものができた」「美濃焼のコースター大事にします」と言って持って帰られる方が多いんです。ちゃんとその材料の意味も話すと、たった30分だけど、「とてもいい豊かな時間が過ごせたわ」というふうに言ってくださる方が、すごい多いなと私は思っています。

そんなこと言われたことないって先生もいっぱいいるんですよ。だからただ作るだけじゃなくて、そのタイルの魅力もちょっと話す。そういうことを含めた活動が、これからとても大事だなと思うので、私はそういう先生を増やしていきたいなと思っています。

私のアシスタントや生徒さんにはそういう話を普段からしているから、みんな私の代わりにアルバイトで教えに行くことがよくあるんですけど、「先生がいつも言ってた話してきました」と言ってくれます。その生徒さんたちは、そこからリピートが来てもう一回先生として来てくださいと言われる人が多いです。

それができない人は二度と呼ばれないこともあるんです。「ただ作ればいい」とか「素敵なものができればいい」という考えだけでは、美濃焼の魅力が伝わらないから、タイルのことをちゃんと説明できる講師の育成をしたい。そういうタイルのことこそ、素晴らしい先生が説明しないと意味がないなと思っているので、そのトークができる先生をどんどん増やしていって、美濃焼やタイルの魅力を伝えていきたいなと思っています。

Profile

伊東 亜由

Ayu ito

タイルクラフト歴27年、新しいカタチのインテリアデザインをタイルを使った作品でご提案。
新商品企画や講師活動で築いた集客の実績でクリエーター活動、販売、プロデュース、講師育成も行っています。

Instagram

山口 先生

山口 先生

文化服装学院

成長の軌跡を残す面白さもタイルなら可能に

タイルをどこで使うか考えた時に、家のルーフトップの床にタイルを貼ったら面白いかもしれないなと考えました。
木は日光による経年劣化が起きるので、必ずメンテナンスをしないといけない。室外機のカバーも日光の日差しであっという間に朽ちてくのを目の当たりにした時に、タイルなら外に貼っても朽ちていかないことに気がつきました。
それに加えて遊びの面白さもタイルにはあると思いました。
例えば、小さいお子さんがタイルアートをして、それを床に貼ってもいい。3歳の時のアート、5歳の時のアート、10歳の時のアート、と成長と共に増やしてもいいですよね。成長の軌跡を残す面白さもタイルなら可能だと思うんです。

タイルには、味わいや愛おしさの魅力がある

数年前に家をリフォームしたんですが、前の家の方がよかったなと、やらなきゃよかったなと思いました。
キレイで便利になったんですけど、ツルッとして、シンプルでのっぺりして、面白みがなくなってしまったんです。何か工夫を加えないと暮らしがつまらなく感じています。
前の家は、扉の木目があったり、その木目が顔に見えたり、日によっては怖く見えたり、優しく見えたり。玄関の床にもランダムな石があって、子どものころは石を踏まないように歩いたり。
今思うと、フラットじゃない、凹凸のある世界は思考を刺激してくれていました。日本のタイルには、前の私の家を思い起こす、味わいや愛おしさの魅力があると思います。

キレイすぎなくていい

キレイに直線的でムラなく左右対称、全て均一の整然としたものではなくて、キレイすぎなくていいんだとこの仕事をしてると気付かされます。
私自身も何か創作する時は、少しの不便があったり、散らかってる方が偶発性を生み出すきっかけとなって、アイデアが生まれます。
学生たちがものづくりをしているのを見ていると、左右は関係ないんだ、秋冬なのに夏にするんだ、枠にはめずにはみ出すんだ、という創作をしています。
その結果、出来上がるものってすごくパワーがあるし、逆にバランスが取れていたりするんです。「外しの世界」という存在していると思います。

もっと違っていい

一人ひとりの生活は唯一のはずですよね。こういうのがいいよ、という情報が流れて、そこに乗っかるというのは誰かの人生を生きているようなものだと思います。
もっと違っていいし、自分はここが好き、そういう気持ちや枠にとらわれないことって大事ですよね。
均一のキレイな「量のタイル」ではなく、バラバラでも味わいや温かみ、散らかっているのが魅力がある「価値のタイル」としてポジションを獲得していくことが突破口になるかもしれないですね。

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